愛してる。次は空の上で合おう 6-1.(試し読み完)

6-1.

重低音のBGMがズンズンと心地よい。自分の命もかかっていると思うと、自分が参加しているような臨場感がある。常に銃をケイタイする仕事の人達は、やっぱり【省略】が得意で、次々とライバル達を血の海に沈めていく。死亡が確定すると、顔写真と簡単なプロフィールが画面下部に表示されて、赤い大きなバッテンがつく。あ、あれ【省略】かな?アレ?いいの?そんなの?アハハハハ。次々とプロフィールと顔写真が表示されて赤いバッテンがついて、誰が【省略】たのかさっぱり分からないよー。

 次々と表示される死亡者プロフィール。見逃してなかったら、まだ、ツグは生きている。上手く逃げているのかな?ヤダ。顔が火照ってる。こーふんしてる?【省略】手に汗をかいている。


 100人ぐらいが【省略】じゃって、動きがなくなった。【省略】が得意な人達は、お互いを意識し過ぎて共倒れになっちゃったみたい。公務員の実力にはキセンはなかったか。そうなると、後はノミの心臓の集まりで、一時間くらい全然動きがなかった。私はドリップコーヒーを4杯も飲んでしまった。

 特に前触れもなく、ピンポーンという軽快な音と合成音声のアナウンスが流れた。


「膠着状態が60分を過ぎましたので、特別ルールを適用します。」


 参加者も、私も、「は?」という感じだった。そしたら、画面が会場上空に切り替わって、何かが落ちた。

【大省略】

ツグの手書きの汚い字が並んでいた。義手で書いてくれたのかな。


『愛してる。次は空の上で合おう。Tugu。』


 一瞬、「会」と「合」の意味の違いを考えたけど、ローマ字で名前が書いてあるのに、ドン引きして、病院の受付で大笑いしてしまった。不安な気持ちは消えていた。やるな、Tugu。



これにて、「試し読み」は終了です。ラストまで気になる方は、是非、電子書籍版をご購入頂くか、はたまた、続編を書いて、なんらかの形で本にする予定です。何が何でも読みたい!というかたは、「劇団ヤルキメデス超外伝」までご連絡いただければ、なんらかのアクションをとるかも知れません。

それでは、また、お会いいたしましょう。

肉屋の店員さんのツグに勝てる訳ない 6.

 6.

 私は、持ち回りの当番制で、指名をもらって、それを受けたら即オーケーだった。こんなに楽しているのは私だけ。ツグが出る『ira』は、選抜にエンターテイメント性を持たせていた。その内容は、すごくシンプルに「【省略】大会」です。【省略】の上手さを競い合う内容。全員で一斉に【省略】、生き残った人が優勝。ツグが話してくれなかったから、内容を知らなかった。128人の【省略】が参加していて、ツグもその中の一人。ポリスとか、アーミーとか、【省略】のプロもいて…単なる肉屋の店員さんのツグに勝てる訳ない。


 「どうしてツグは話してくれなかったんだろう?」


 そう思うと胸がキュンとなった。ツグのことは好きだった。だから、毎日のように一緒に寝ていたし、どんどんマニアックになる、【省略】もゆるせた。「好きだから」が全てだと思っていたけど…そんなのは、飛び越えた感情が襲ってくる。好きな人が死ぬかも知れない、できれば、こんな感情とは無縁でいたかった。手が震えている。「ツグが死んだら私も死のう」、そう考えたら、手の震えは止まったように思えたけど、抑えている手も、身体も一緒になって震えているのかも知れない。

 気持ちが裏返ってしまったのか、テレビで行われる【省略】ゲームは、娯楽番組の一つに思えた。

テンション上がって声が高くなってるじゃん 5.

 5.

「じゃあ、俺も『ira』で昇れるように頑張ってみるよ。」


 仕事が終って、店でのことを話したら、ツグはそう言った。すごく簡単に言うじゃない。あんたも『選別』の事は知ってたの?


「リーフレットとか教典に書いてあるじゃん。ジョーシキ。ジョーシキ…。」


 ん?


「…今までは自分に関係ないことだと思っていたし、ユラと分かれるのヤだったから、考えもしなかったけど…うん。いいぞ。今、一気に道が開けた!ユラ…俺達、一緒になろう!」


 テンション上がって声が高くなってるじゃん。


「盛り上がっているところ悪いけど、盛り上がっているからこそ言っておくけど、水かけとくけど…そもそも、じゃない?私達、お…。」

「ユラって本当にリーフレット読んでないんだね?大いなる意志の前では、そんなのササイな問題なんだよ?あの街に住むということは、この街じゃない、素晴らしいことが全てなんだから!」


 アチャー。完璧に戻ってる。まぁ、実は私は、こっちのノリの方が可愛くて好きなんだけど。


「それにねユラ!あの街に上ったら!私達、子どもも【省略】!」


 え!ホント!


「そう!貰うんじゃあなくて作れる!」

「ホントに!?」

「ホント!ホント!私達、本当に一緒になるんだから!」

頑張って仕事をすることがそこに通じていたなんて、普通に嬉しい 4-1.

4-1.

最初のお客さんは、あの【省略】人の8倍強くて【省略】なる人だった。ご指名だって。【省略】手をパタパタしながらボーっと考える。この人は、物憂げな目が好きらしいから、丁度良いのかも。

 店長が言うには、「年に4回、7人の人間が選ばれて、それぞれ別のエスカレーターで、あの街に昇るらしい。7人は色んな基準で選別されるけど、私の勤めるこの「【省略】」業界、『luxuria』?からも1人選ばれる。組合の持ち回りで、候補者を選ぶらしくて、今回は私…「ナンバー1だからね。」とオカマ店長は言ってた。他の6人は、大会とかコンテストで選別されるから、私はラッキーなんだそうだ。

 人生の転機は、こんな風に何の前触れなく起こるのか。私達は誰しも、あの街に昇ることを夢見ている。切っても切り離せない感情だ。でも、具体的な方法が分からず、だからこそ漠然とした「憧れ」だったのだけど…頑張って仕事をすることがそこに通じていたなんて、普通に嬉しい。断る理由はない。今日の仕事が終ったら、オカマ店長に「上ります」と言おう…と思った時、はっと、ツグの顔が浮かんだ。


「あ、ああ、いい!その目がいい!【省略】すごい!」


 全然そんなつもりはなかったけど、8倍【省略】たくなる人は、一気にアガッてしまった。心ここにあらずだったから、なんだか悪い気分。

目を、心を常に空に向けて、暮しましょう 3-1.→ 4.

3-1.

 いわく、我々は、空にて生まれ、地に落ちた。

 いわく、いつの日か、空に帰るために、我々は尊くあらねばならない。

 いわく、大いなる意思、海、そして母胎樹に還ることが最上の喜びである。

 いわく、そこで我々は、一つになることができる。

 いわく、その時のために、己のケガレを見つめなければならない。

 いわく、目を、心を常に空に向けて、暮しましょう。

 いわく、それが地に生きる私達の、最上の喜びなのです。


 それは、リーフレットに印刷された、ただの文字のハズなのに、モクドクしてると、心が、安らぎ、そして、眠気がやってきた。ツグが電池を出して来て、ゴソゴソしてる…今日は、もう勘弁して欲しい。


 4.

「急なお願いで悪いけど、ユラちゃん上がってくれないかしら?」


 出勤すると、パンク調のオカマ店長に声をかけられた。


「バレてました?ちゃんと演技しているつもりなんですけど…体調とかもだけど、【省略】れないんですよねー。」

「そうじゃなくて、この店の代表としてユラちゃんにあの街に上がって欲しいの。」


 今更だけど、私の名前はユーラだ。皆、省略して「ユラ」って呼ぶけど。


「あの街に上がるって、どういうことですか?」

「うーんとね。ユラちゃん知らなかった?定期的に、この街から、あの街に、人が上がっていること。」

「なんとなくは知ってましたけど。」

「それで私達の業界からもね。1人選ぶのだけど…。」


 色々聞いて、「考えさせてください。」と言って、仕事に入った。

区役所で貰ってきた書類とかが散らばっている 3.

 3.

 窓の外を見ると、7本のエスカレーターのうちの一本が見える。根元には建物。貨物列車のコンテナが行き来している。朝も夜も関係なく、ずっと動いている。それは、工場や農場で作られたモノを、あの街に上げているらしい。特別な人は、あの街に上がれるらしいけど、多分、私達には関係ない話。お金持ちだったらなぁ。

 窓から見上げると、空は、あの街で隠れて見えない。小学校の農場合宿で空を見たとき、その空はあの街で隠れてなくて、夜に初めて星というモノを見た。あの街から見える星は、もっと近いのかな。

 枕元を見ると、私の枕を占領してツグが寝ている。やることやったらすぐに寝ちゃう。そういうとこが変に男っぽいのは、徹底しているというか、努力しているというか。しかしコイツはどんどんマニアックになるな。今夜のは【省略】電池が切れてた。燃費悪い。まぁ…それだけすごかったけど。

 ベットの傍のテーブルをみると、ツグが区役所で貰ってきた書類とかが散らばっている。婚姻届。無理だっつーの。資源ゴミの収集日が変わります。そうなんだ。子供養育権の申請。だから、無理だっつーの。「したみてくらすなうえみてくらそう教の教え」…ふーん。こんなリーフレットを区役所で配ってるのか。これは、私達が信仰している最もポピュラーな宗教です。名前のまんまで、上を、空を見て暮しましょう…という感じ。あの街への憧れのオオモトかな。どれどれ、眠たくがてらに、ちょっと読んでみようかな?

あの街とこの街は1本のエレベーターと7本のエスカレーターで 2-1.

2-1.

「…でもさ。俺達、もう、ずいぶん一緒に住んでいるからさ。そろそろ。」

「別に形にコダワラなくていいじゃん。することだってしてるし、一緒に、ご飯も食べているし。一緒にお風呂も入ってるし。」

「子どもとか、欲しくない?」

「欲しくない?どーせ自分の子どもじゃないんだから、いらない。」

「それはそうだけど…。」

「自分の子どもだったら、結婚して作ってあげてもよいけどね。結局さ、血の繋がってない、イデンシを分かち合ってない子どもと一緒に過ごす意味ってあるの?そりゃあ、勿論、ミーム?とか?私達が育てた!とか、思想とか、そんなのが受け継がれるかも知れないけど、そういうの、私、興味ないんだなぁ。自分の子どもだったら、全然、育てて良いのだけど…ねぇ?【省略】?」

「…【省略】はないけどさ。」


 はいはい。この話をふってくると、最終的に私がウンチクをこね回して、ツグを黙らせてお終い。口げんかに至らず。一応、誤解されないように言っておくと、この街の人間は、全員タネナシで不稔物?【省略】だから、子どもは作るんじゃあなくて貰う。結婚したら子どもを貰う権利が発生。子どもを授けて下さるのは、天にお住まいの麗しき方々。会ったことないけど。

 あの街とこの街は1本のエレベーターと7本のエスカレーターで結ばれていて、子どもはエレベーターで降りてくる。うーむ。上手く説明できたかな。頂く子ども、私達も、ようは余り者なんだって。届けられる子ども達は、あの街に住めなかった子どもで、私も元々そうだった。親じゃなくて孤児院で育ったけど。【省略】降りてくる時に排除されちゃう。らしい。元からあったかどうかも疑わしいけど。


「じゃあさ、これだけは分かってよ。結婚とか、子どもとか、言っているのは…一緒になりたいんだ。つまり、愛してる、愛してるんだ。」


 はいはい。分かってますよ。口には出さないけどね。

空を見上げると、あの街の明かりも消えていた。 1-2→2.

1-2

「お帰りなさいませー。」


 …これは、お客さんが私にいだくイメージとは違うかも知れないけど。


「…あんたなら、うちでタダでさせてあげるのに。」


 少なくとも、私には、恋人がいる。


 2.

 店を出ると、騒々しいネオンは消えていた。空を見上げると、あの街の明かりも消えていた。朝日が昇るまでのわずかな間、この街は、ほんの少しだけ眠る。街が眠っている間に私は家に帰る。道は薄暗く、道端に転がっている人が、酔っ払いなのか、死体なのか、よく分からない。いっそ、死んでてくれる方が安心だけど。怖いなぁ。心細いなぁ。なんて言ったりして。


「ありがとね。」

「もうちょっと最後の方にしたら良かったかな。順番。」

「何してたの?」

「家でぼーっとしてたよ。寝てた。」

「ふーん。どっち?」


 いつもは、迎えにきたりしないのだけど、わざわざ客として、お店にきてみたり。こういう時は、きっと何かあるに違いない。


「私、結婚とかしないからね。」

「ええ!?」


 先手必勝に限る。前々から、こいつは、ツグは、何かと結婚とか、そんな話をしてくるヤツなんだ。だから、もう、おんなじ話と、おんなじ口ゲンカは、したくない。

決まったコースと料金体系はあるのだけど 1-1.

1-1.

「もうアガリますかぁ?」

「もうちょっと待ってもらえれば…。」

「時間あとちょっとですよ。がんばって下さいね。」


 このお店には、一応、決まったコースと料金体系はあるのだけど、私は自由にやらしてもらっている。【省略】そういう細かな需要に応えるのが、指名を多く貰うコツかな。この人みたいに、他人に触れられないのに、【省略】人の8倍強くて、本当に犯罪をする一歩手前で苦しんで、てのはレアだけど。【省略】色とか、形とか、厚さとか、薄さとか、イボイボ…。


「ふぅ。その物憂げな目をみたら、ぞくぞくってなって、一気に手が動いたよ。」


 …考え事してただけなのに、なんだか悪い気分。【省略】悪い気分。やっぱり、イヤシイかな。頑張って芯抜いた方がトートイかな?カドが立ってる?


 ブザーが鳴って、人に触れられると死にたくなるけど【省略】人の8倍強い人は、軽くおじぎをして出てった。さてと、次のお仕事の準備。次もお客さんが入ってる。内容は…ちょっと変なの。疲れるな。さっき、楽させてもらった分、仕方がないか。こういうお店に来る人ってなんとなく、私達は「1日1人」で「1人は自分」ってイメージ持ってない?でも実は、わりとルーチンワーク。決まったコースでやってないから、ちょっとは頭を使ってる気がするけど。アナタは1日の中の何人かの1人に過ぎないの。

 流れ作業ってことかな。ひとつ仕事が終ったら、次の仕事のための準備。時間がきたら、次のお客さんが入ってくる。さっきの人は、自分でアガってくれたから、ほとんど汚れてないのだけど、一応、アメニティは全部入れ替えて、マットも新しいのを出して、そして、シャワーを浴びる。【省略】結構、ハードなルーチンワーク。おっと、ブザーがなった。

お空の上だと私は思う 0-1.

 0.

 昔は、【省略】時に、【省略】言ってたらしい。何処に【省略】クルの?昔の人の考えることは分からない。私達は、「アガル」とか「ノボル」って言ってる。どこにアガッて、ノボルかと言えば…少女趣味っぽくて、ちょっと恥かしけど…お空の上だと私は思う。


 1.

 女に生まれて良かったと思うのは【省略】でも、もしも、この仕事がなかったら…誰のためとも分からない、レタスを洗って、芯をくり抜くような、そんな単調な、ツマラナイ仕事しか、私は出来ないと思う。職業にキセンはないなんて言うけど、レタスの芯を抜くのと、【省略】どっちがイヤシく、どっちがトウトイかな?【省略】


「はぁはぁ。俺、思うんだけど、全ての道はローマに通じる、というか【省略】。」


 人間にはキセンはないのかな?この人は手を忙しく動かしているけど、傍にいて貰わないとアガレないんだって。なのに、他人の体温を感じると、【省略】。人と触れ合いそうになった時は、頑張ってその事実を伝えて、さらに【省略】なるらしくて、手とか腕とか、【省略】だらけ。人間フランケン…というのは、訳が分からないか。

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